

集落を外れた道路から1段高い場所にひっそり佇むお堂。手入れはよくなされているが、人気はない。2005年出版の『祈りの絵・淡路島の絵馬』によると、淡路島で乳絵馬が確認されて乳の祈願が行われたと推察される場所は11か所だったが、2023年時点で乳絵馬の現存が確認できたのはそのうちの2か所、ここと小榎列(こえなみ)薬師堂だけであった。
『祈りの絵・淡路島の絵馬』で永田氏はここの乳絵馬2点を挙げ、淡路島に現存する乳絵馬では最も古いものであろうと記載している。
1点は搾乳図で、大変ふくよかな乳房の女性を画面中央に描き、乳が迸る様子は、後世の搾乳図のようにデフォルメされた極端な描き方ではなく、リアルに細い線状に描かれていると述べている。もう1枚は搾乳図ではなく胸をはだけた母親と這い寄る子どもの図である*。
2023年4月訪問時に、堂内にはこの2枚がちゃんと残っていた。
この近くには淡路島最古の民家といわれる正井家がある。建坪約70坪の平屋建てで江戸時代天保の頃の庄屋の屋敷構えを今に残している。白山観音堂の中には、年に6回行われる行事の手順書が掲示されているが、それを見ると正井家はこの観音堂の祭事にも大きな役割を果たしているようだ。
*『祈りの絵・淡路島の絵馬』では、間違ってカラー口絵の小榎列薬師堂に混じっている。またp126の説明文は東光寺のものではなくこの絵馬の話である(2024年3月著者に確認)。
永田誠吾:祈りの絵・淡路島の絵馬、教育出版センター、2005年、p119(写真)、p127(文)、p330(データ)
写真:奥 起久子撮影(2023/4/23)、乳絵馬写真は永田誠吾提供