小榎列(こえなみ)集落は淡路島特産の玉ねぎ畑と住宅が混在する地区である。賢光寺(げんこうじ)と府中八幡神社に並んで薬師堂がある。ここにお供えしたお米1合を持ち帰り、毎日少しずつ食べると乳がよく出るといわれたという情報が『淡路巡礼』にある。
堂内には、淡路島最多の43枚の奉納された乳絵馬が残されている。多くが搾乳図であり、女性が搾っている乳が床に置かれた容器に向かって飛んでいるデザインは、埼玉県松伏町・蓮福寺、千葉県酒々井町・吉祥寺、神奈川県川崎市・影向寺、奈良県葛城市・高雄寺の絵馬等に共通して見られるもので、日本のあちこちに同じデザインのものがあるのは興味深い。
薬師堂には、平安時代後期の作である県指定文化財の薬師如来立像が祀られており、淡路四十九薬師霊場の第4番霊場でもある。境内には他に2棟の建物があり、西国観音堂と茶堂のようだ。
現在薬師堂を管理している賢光寺は、山号を真珠山という高野山真言宗の寺院。開創は不詳であるが、隣に建つ府中八幡神社の神宮寺であった。府中八幡神社は奈良時代初期の創建といわれる古い神社で、江戸時代には淡路の景勝地の一つとして『淡路名所図会』に描かれており、よく知られた場所であったようだ。
武田信一:淡路巡礼、名著出版、1981年、p51 https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/12222433/1/28
永田誠吾:祈りの絵・淡路島の絵馬、教育出版センター、2005年、p118(写真)、p125(文)、p370〜371(データ)
写真:奥 起久子撮影(2023/4/23)
資料提供:賢光寺