長寶寺のすぐ側を流れ落ちる小さい渓流を花川といい、側に授乳姿の石造りの観音が祀られていて、この水と護符をいただくと乳の出に効果があると『玖珂郡志』にある。曰く、「花川ノ脇ニ子ニ乳ヲ飲マシメタマフ観音ノ石仏アリ。婦人乳ノ通ザルモノ、此水ニテ御符ヲ戴ク時ハ、其験速成」。
『周東町史』にも、寺の護符を受け、寺内の水(住職:花川の水のこと)をいただくと効験があるという話がある。
住職のお話では、乳の祈願は以前よく行なわれていた。今も希望があれば護符をお渡ししていると。花川の水量は結構あるので、以前あった授乳の観音は大水で流されてしまい、現在祀られているのは新しいものとのこと。周囲には沢山の石仏が方々に立っているが、授乳の石仏像は一番下にある渓流の橋のそばである。
長寶寺は山号を洪福山という臨済宗の寺院で、創建が大同2年(807)という古刹。代々領主の篤い保護を受け、大内義隆や毛利輝元の判物などがある(『周東町史』)。ご本尊は十一面観音が観音堂にお祀りされており、周防国三十三観音霊場の第2番札所。人里離れた山の中腹にあって、山門のそばに「熊に注意」という張り紙がある。
広瀬喜運:玖珂郡志、マツノ書店、1975、p357〜358
https://dl.ndl.go.jp/pid/9573255/1/191
周東町史編纂委員会:周東町史、周東町役場、1979、p968
https://dl.ndl.go.jp/pid/9773066/1/499
写真:奥 起久子撮影(2024/4/21)