旭の乳観音ともいわれる宝珠を持った小さい石の観音さまで、お堂内に祀られている。この地域の伝承についてまとめた『光市史跡探訪』や『失われゆく民間信仰』には、一対の乳型をお堂に納めて祈願すると乳がよく出るようになる、願いが叶った場合は母乳を奉納すると子どもが無事に成長するといわれている、とある。
『防長風土注進案』には、天保12〜13年(1841〜42)に書かれた眞行寺の記事として、小野寺浴の観音は乳観音と言われ、溝を浚(さら)って祈願すると乳が出ると言われたとある。元々は近くの眞行寺(現存)にあったものと想像されるが、情報はない。
『光市史跡探訪』や『乳守の巡礼』にも、乳観音と呼ばれること、お堂の前の溝をさらって祈念すれば乳出のご利益があると書かれており、元情報は天保12年(1841)の『小周防村風土記』と記載されている。
この観音さまは、最近まで旭集落の「小野小町の碑」の向かい側にある山の中、長い石段を登って行った瑜伽社(ゆかしゃ)という神社の境内にあった。しかし崩壊の危険があるとのことで、令和5年(2023)に川向こうの長徳寺境内にある「さすり地蔵」を祀ったお堂に移された。以前のお堂にあった乳型奉納物も一緒に移されて新しいお堂の壁に架けられている。
松村 久:防長風土注進案 第7巻復刻版、マツノ書店、1983、p129〜130
https://dl.ndl.go.jp/pid/9575392/1/206
國廣哲也:光市史跡探訪 第1集、光市文化財研究会、1986、p120〜121
https://dl.ndl.go.jp/pid/9576209/1/72
小池綏男:乳守の巡礼、ほおずき書籍、2004、p660
古川知明:失われゆく民間信仰、学術研究出版、2021、p122〜124
写真と情報提供:吉村文子氏(山口県在住助産師、IBCLC:2024/6/16撮影)