天神集落の天満神社の境内に立っている県指定天然記念物の大イチョウ。幹や枝から驚くほど多くのチチが垂れ下がっていることでよく知られる。直径30cm、長さ5mに及ぶものが約15本、小さなものは数えようもなく無数にあり、乳銀杏として住民の信仰の対象であった、と現地の天然記念物説明板にある。
このチチの多くは途中からすぱっと切リ取られており、断端から更にチチが生じているものもある。近年なっても切り取りが行われたことを示す比較写真が佐藤征弥氏の論文にある。このような状況から祈願のため多くのチチの先端が切り取られたことが強く推測されるが、明確に乳の祈願の存在や、祈願のためにチチを切り取ったことを記載した資料は不思議なことに見当たらないようだ。
現地案内板には樹高38m、幹周10.0m、推定樹齢900年とあるが、最近の石井町公式サイトでは樹高17m、幹周10.5mとなっている。
ここから少し離れた神宮本宮神社に、同じく県指定天然記念物である矢神のイチョウがある。栃木県立博物館が発行した『那須与ーの歴史・民俗的調査研究』に、矢神のイチョウにも催乳という効果があるとの記載があるが、この書籍以外には乳のご利益に関する情報は見当たらなかった。
栃木県立博博物館:那須与ーの歴史・民俗的調査研究、1991、p52〜54
佐藤征弥、瀬田勝哉:ライバルイチョウ〜矢神のイチョウと天神のイチョウ〜、徳島大学総合科学部 人間社会文化研究、14:105〜131、2007
写真:奥 起久子撮影(2023/4/24)