日本助産師会出版

乳信仰探訪

イチョウは気の毒なほど周りを建物に囲まれているが、大きくて樹勢もよい
お地蔵さまの腕にかかっている小さい乳型を繋いだ奉納物は現在ほとんど残っていない珍しいもの
高塚地蔵堂の本堂

高塚地蔵は、あらゆる願い事の祈願が行われる神仏混淆の祈願所で、参道入口から上にあるイチョウまでの石段の脇には土産物店が立ち並んでいて、多くの人で賑わっている。このイチョウについては、『日本老樹名木天然記念樹』に「ここの婦樹に垂下している乳房を削って煎じて飲むと必ず乳が出るという」とある。夫婦公孫樹とあるので、当時は対で存在したものか。
境内案内板には、高塚愛宕地蔵尊略縁起抄の内容として、次のような話がある。天暦6年(952)にこの地に来た行基が、既に大木(大人5名で抱える大きさとある)であったイチョウの枝に大きな乳の形をした宝珠を見つけた。「この霊場に祈れば一切の功徳が授かるであろう」と1体の地蔵菩薩の木像を彫刻して立ち去ったので、里人がそれを祀ったという。
イチョウは県指定天然記念物で、環境庁データベースでは、樹高36m、目通り幹周5.3mとあるが、5本が根元から分岐し全部で20数株の株立ちで、印象は遙かに大きい。現地には樹高24m、目通り幹周13m、推定樹齢1300年余という新しい案内板が立っている。乳授けの祈願として、年齢と同じ数の白い布で作った小ぶりの乳型をイチョウの根元にお供えするという話が大分県公式サイト特別保護樹林のページにあり、1つが現存する。

本多静六:大日本老樹名木誌、大日本山林会、1913、p129
郷土史蹟傳説研究会編:増補 豊後傳説集、1932、p118
帝国森林会:日本老樹名木天然記念樹、大日本山林会、1962、p319
熊本広志:九州の巨樹、2009、p82
森林ネットおおいた:大分の名樹、2019、p 51
大分県特別保護樹林のページ  https://www.pref.oita.jp/soshiki/16210/tokubetsuhogojyumoku.html#42
写真:奥 起久子撮影(2023/8/20)

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