有吉佐和子の小説『紀ノ川』に「廟の前の柱にぶら下がっている数々の乳房形に気がつくと、しばらく瞑目することを忘れていた。それは羽二重で丸く綿をくるみ、中央を乳首のように絞りあげたもので、大師の母公と弥勒菩薩を祀る霊廟に捧げて安産、授乳、育児を願う乳房の民間信仰であった」という記載があることでよく知られている。
以前は手作りだったが、近年お寺の授与所に準備されていることもあって、多数の乳型絵馬が奉納されている。2012年からはそれまでの乳型女性お守りに加えてピンクの乳がんお守りも提供しているそうだ。
慈尊院は高野山真言宗の寺院でご本尊は弥勒菩薩(別名が慈尊)。弘法大師が弘仁7年(816)に庶務を司る政所、高野山への宿所、冬期の避寒修行の場所として開設。高野山が女人禁制だったので、四国の善通寺から訪ねてきた大師の母の玉依御前はここに滞在し、大師が月に9回母を訪問したというのが地名の語源である。明治5年(1872)に女人禁制が解除されるまでは、女性はここにお参りしたので、女人高野といわれる。
平成16年(2004)この地域一帯が世界遺産に登録され、周辺には国の重要文化財、県指定文化財が多い。
有吉佐和子:紀ノ川、中央公論社、1959年
中村 浩、神坂次郎ほか:紀州の伝説 日本の伝説39、角川書店、1979年、p49
慈尊院公式サイト https://jison-in.org/about/top.html
写真:内岡 恵撮影(2005/11/12、2006/6/9)、奥 起久子撮影(2025/2/3)