眞禅寺はため池が散在する北宿地区の街外れの静かな場所にある寺院。住職からの情報では、薬師堂に祀られている薬師如来は子授けや乳の祈願で知られ、明治以降、昭和初期頃までは、毎月8日のお薬師さんの日には参道に行列ができるほど多くの女性がお参りに来た。また次子のために預かっておいてくださいと搾った乳を器に入れてお供えすることも行われていたとのこと(2025年取材)。
こういった「乳預け祈願」は近畿地方を中心に知られるが、あまり多くはなく、なぜか四国・九州や関東以北には見られない。兵庫県内では乳の祈願で知られる30ヶ所中情報が把握されているのは、ここを含めて2ヶ所のみである。
また乳の祈願について書かれた資料としては、『べっしょの民話伝説いい伝え集』に、真禅寺の薬師如来は北宿の別の場所から薬師堂を移したもので、洗い米をお供えすると乳がよく出ると言われていたという記事があるのみ。
眞禅寺は山号を八王山という臨済宗妙心寺派の寺院で、本尊は本堂にお祭りされている十一面観音。薬師堂は本堂とは棟続きになっている。
薬師如来は平安時代後期の作と言われ(寺院パンフレット)、両脇に日光菩薩・月光菩薩と思われる脇仏を従えた立派なものである。現在は公開されていないが、現在も祈願を依頼される方はいるので、祈願の便を図るため公開を検討中とのこと。
境内には2体の石棺仏がある。石棺仏とは古墳時代の石棺部材に仏像を彫ったもので、ここの1体は彫られた年代が判明しているものの中では日本最古のものという。
そばのため池にはオニバスが自生して保護の対象となっている。
別所公民館ふるさと歴史勉強会:べっしょの民話伝説いい伝え集、2003年、p7
写真:奥 起久子撮影(2025/2/1)