

飾東町の山間をぬって流れる天川沿いの農道から少し上った場所に、お地蔵さまが3体祀られた小さなお堂がある。真ん中の大きなお地蔵さまは母乳を出すだけではなく、多すぎる場合には減らすというご利益があり、かつては参詣者が絶えなかったと姫路市教育委員会の設置した現地案内板にある。数少ない乳預け祈願もあったようだ。
祈願の際には小石を1つ持ち帰って胸を毎日撫で、願いが成就した後は新しい石を加えて2つをお礼に納めるといわれていて、お堂の中には沢山の石があった(『飾磨郡誌』『ひめじ明治のかたりべ』)。お礼の奉納物は、持ち帰った石のほかに涎掛けと書かれたものもある(『郷土の民話』)。
もう1つのお地蔵さまは頭が取れていて、むかし旅の途中でここに休んでいた武士が、刀で切り落としたと伝わっている。
すぐ近くには「苔の清水」と呼ばれる湧水がある。室町時代に播磨の守護大名だった赤松義村が定めたという「播磨十水」の1つとして知られるが、最近水の量が著しく減っているらしい。
姫路市教育委員会:姫路の文化財 地域別文化財 第2巻、2002年、p191
郷土の民話中播地区編集委員会:郷土の民話 中播編、1972年、p109〜112
飾磨郡教育會編纂:飾磨郡誌、兵庫縣飾磨郡教育會、1927年、p283
ひめじ明治のかたりべ集編集委員会編:ひめじ明治のかたりべ 上巻、1979年、p32〜35
姫路市教育委員会:文化財見学シリーズ29「飾東町を訪ねて」、2005年
https://www.city.himeji.lg.jp/kanko/cmsfiles/contents/0000002/2172/29.pdf
写真:古賀浩子氏提供(2023/5/1撮影、兵庫県西宮市在住、助産師、IBCLC)