山の中の小さな盆地にある相坂の集落を見下ろす場所、県道436号に面して観世音菩薩堂があり、相坂の観音さまと呼ばれる。ここに乳の祈願が行われたこと、乳の出が良くなると「願びらき」に乳房の型を二個布で作り、お礼に奉納したという話が『成羽町史』にある。
堂内の壁には乳型絵馬が10個以上残っている。お堂のそばにはそんなに大きくはないがイチョウの木が立っており、お堂の脇には宝篋印塔(ほうきょういんとう)の頭部の丸い部分のようなものがいくつも壊れた状態で置かれているが、由来等については不明。
集落の年配の男性の話によると、「乳の祈願の話は昔から伝わっていて、お堂には乳が出るようにというおっぱいがたくさんある。ずっと集落で毎年お祭りをしていたが、コロナで中止したままになっている。集落の戸数が減って年寄りばかりになり、これから先お祭りを続けるのは難しくなってきている」とのこと(2024年7月取材)。
なお『成羽町史』の相坂の観音さまと同じページに、成羽町羽根にも乳の祈願が行われた観音堂があるという記載がある。相坂の観音さまから3.6kmほど離れた山の中に現存するが、所有者などの詳細がわからない。
成羽町史編集委員会:成羽町史 民俗編、1991、p741
写真:奥 起久子撮影(2024/7/7)