格式高い吉備津(きびつ)神社の赤く塗られた本殿の前、向かって左に小さな「乳房神社」の祠があり、そばに枯れた幹の根本部分と「公孫樹乳房神」という石碑がある。『大日本老樹名木誌』には「乳房神の公孫樹」という名称で呼ばれていると、『樹木図説』には名称と、乳患の婦人が祈願すると霊験があると記載されている。神社の公式サイトには、ご利益として、安産・子育て・縁結びとのみ記載されている。
これらの資料には乳の祈願が行われたことを直接示す証拠はない。民俗学に詳しい当神社の禰宜 尾多賀 晴悟氏に調べていただいたが、見当たらないとのことである。しかし「乳房の神さま」にいったい乳以外の何を祈願したのであろうか、という理由でリストに加えることとした。
このイチョウはチチがたくさんある巨木でご神木だったが、明治時代に枯れたとのこと。チチのついた幹の一部は山門に展示されている。「乳房神社」のそばにはイチョウの2代目が生育中である。
拝殿に向かう石段下の広場には大きなイチョウがあり、現在こちらがご神木として注連縄が巻かれているが、昔のご神木のイチョウとは別である。
またこの神社の石段には祈願のための盃状穴(はいじょうけつ)が多数穿われているので、注目して見たい。最初から石段だったのか転用石なのかについては不明。
備後一宮吉備津神社は、由緒ある古くからの神社で、境内も広く、国宝をはじめ多くの文化財がある。
本多静六:大日本老樹名木誌、大日本山林会、1913、p134
上原敬二:樹木図説 第2巻イチョウ科、加島書店、1970、p168
サイト「ひろしま文化大百科」 http://www.hiroshima-bunka.jp/modules/newdb/detail.php?id=787
写真:奥 起久子撮影(2023/4/9)