住宅と田畑が広がる地区の一角にあるこぢんまりとした神社。山王さん/乳神さんといわれ、祈願すると乳の出をよくすることで有名で、お参りする人でたいそう賑わったという。参詣する時は、麦の粉の煎ったものを持参する、行きと帰りを別の道にする、霊験あらたかで老女でも母乳が出るようになったという話が『瀬野川町史』にある。
老女の逸話は戦国末期の福島正則の時代の話である。福島正則に攻め滅ぼされた高城山の高氏の一族の中で、乳飲み子と乳母だけが生き残った。乳母は高齢だったがここにお参りしたところ、乳が出るようになったという。
『広島の伝説』には、樹齢600年のムクの木の下にあり、乳神社といわれて乳の祈願が行われたこと、祈願の帰りに後ろを振り返ってはいけないこと、お供えしたお菓子や果物を子どもがよく食べてくれると乳がいっそうよく出るという話が書かれている。
祭神は大己貴命(おほなむちのみこと)。創建の時期は不明だが、安政5年(1858)の山王日吉神社再建御寄進帳という古文書があるとのことで、古い神社であろう。境内のムクノキは広島市保存樹に指定されている。
若杉 慧、村上浅夫:広島の伝説 日本の伝説21、角川書店、1977、p60
広島市:瀬野川町史、広島市、1980、p676〜677
広島市安芸区まちづくり推進課:あきく魅力まっぷ(旧版)、2002
ブログ「広島ぶらり散歩」http://masuda901.web.fc2.com/page9zz15.html
サイト「神社探訪 狛犬見聞録・注連縄の豆知識」http://www.komainu.org/hirosima/hirosima_aki/HiyosiNakanoHigasi/hiyosi.html
写真:内岡 恵撮影(2007/4/22)