遊子谷集落は、肱川嵐(ひじかわあらし)で知られる肱川の支流をはるか上流まで遡ったところにある奥深い山地の集落である。遊子川公民館のすぐ近く県道の上にイチョウが大きく聳えている。付近の人たちは垂れ下がる乳状瘤をとって乳の出をよくするのに使うと『愛媛県老樹名木図説』に記載がある。
同書には、ここは庄屋だった旧家が建っていた場所で、所有者の話として315年前に旧家の祖先がこの地に来た時に、防火のために植えたものではないかという話が記載されている。
これより20年ほど後に編纂された『遊子川郷土史』には乳の祈願の情報はなく、聞き取り調査でも現在地元には乳の祈願の情報は伝わっていないようだ。
『遊子川郷土史』には、イチョウが神の宿る霊木として崇められていること、枝を切ろうとしたところ職人が木から転落したためその後は恐れて伐採する話がなくなったというエピソードが書かれている。
ギンナンをたくさんつける雌木で、樹高35m*、目通り幹周12.7m*、樹齢750年**の株立のイチョウ。かなりの巨木だが、天然記念物などの指定にはなっていないようだ。根元には瓦で作った小さな祠が祀られている。
*環境庁データベース2000年フォローアップ調査 **遊子川郷土史
遊子川郷土史編集委員会:遊子川郷土史、遊子川公民館、1987、p532
秋山英一:愛媛県老樹名木図説、愛媛県老樹名木図説刊行会、1966、p22
写真:奥 起久子撮影(2024/4/23)
資料提供:遊子川公民館