住宅街にある古い歴史のある寺院で、境内のサクラ(エドヒガン)にはうば桜伝説(角木長者伝説)がある。この地の有力な角木長者には大切に育てた一人娘がいた。その娘が病気になった時、乳母が自分の命の引き換えに娘を助けて欲しいと大宝寺のご本尊薬師如来*にお願いした。この薬師如来は乳母が乳授けの祈願をかけて大変ご利益があったからである。
娘は回復し、代わりに乳母は亡くなった。遺言で植えられたサクラの木からは、幹から乳のように直接花が咲き、「乳咲き」と呼ばれたという話が『松山のむかし話』にある。この話は小泉八雲の「Kwaidan(怪談)」で紹介されている。
『えひめ 森林と木の生活誌』には、乳母が乳の祈願をして霊験のあったサクラの木として掲載されている。
大宝寺の山号は古照山で、真言宗豊山派の寺院。寺伝によれば、飛鳥時代の大宝元年(701)に地元の豪族小千(越智)伊豫守玉興が建てたと言われ、お寺の名前もこの年号を元にしている、と伝えられる。
江戸時代には歴代の松平藩主の祈願所であった。本堂は愛媛県最古の木造建築物で国宝に指定されており、伝説では長者がお礼に建てたことになっている。
*秘仏で薬師如来とされていたが本当は阿弥陀如来とのことで、国指定重要文化財。
松山市教育委員会:松山のむかし話、1977、
愛媛県林材業振興会議:えひめ 森林と木の生活誌、愛媛の森林基金、1991、p126
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写真:奥 起久子撮影(2023/10/24)