西山興隆寺は西条市西方の山の中にある古刹で、境内には子持杉と呼ばれる2本の大杉が聳えていた。子授け、乳授けの伝承があり、『日本老樹名木天然記念樹』『愛媛県老樹名木図説』に次の記載がある。1000有余年来この木の根元から清水が湧き出して絶えないので、参拝人の心を浄める水屋が建てられている。この水を飲むと子を授かり乳が出るので子持杉と呼ばれる。
樹齢伝承1100年と言われる巨樹だったが、昭和59年(1984)から平成7年(1995)にかけて次々と枯れ、現在銅板の屋根で覆った巨大な根元が残っている。樹高は29m/26m、幹周は『日本老樹名木天然記念樹』に9.52m/7.56m、『愛媛県老樹名木図説』に12.7m/9.7mとあり、随分大きなものである。2本の根本の間に小さな石仏がちょこんと祀られているが、湧水量は減少してごく僅かになっている。
1100 年前には本寺が今の場所から西方にあり、火災があって堂も塔も焼失したが、本尊の千手観音はこのスギに守られて無事であったと伝えられ、影向杉とも呼ばれる。
興隆寺は山号を仏法山、院号を仏眼院という真言宗醍醐派の別格本山で、紅葉の名所である背後の西山を付して西山興隆寺と呼ばれている。本尊は千手千眼観世音菩薩。数十点に及ぶ国指定・県指定の文化財および宝物が保存されている。
帝国森林会:日本老樹名木天然記念樹、大日本山林会、1962、p90
秋山英一:愛媛県老樹名木図説、愛媛県老樹名木図説刊行会、1966、p10
写真:奥 起久子撮影(2024/4/23)