四国の道と呼ばれるハイキングコースの途中に、寿命院奥の院として薬師如来をお祀りした小さな薬師堂がある。古くから乳の祈願対象のイチョウとして有名で、『西讃府志(1929)』に、香川県三豊郡荘 内村託間郷の大浜津の薬師堂の大銀杏は乳薬師と呼ばれ信仰を集め、「枝毎に乳房垂れたり、長き物は一丈餘、乳の乏しき者、来たり祈るに験アリと云、因て乳の薬師ともいへり」と記載されている。乳房の形をしたものを掛けて祈願をするという話は『日本俗信辞典』 にある。
平成2年(1990)に香川県が立てた現地案内板には、乳薬師堂と呼ばれて祈願すると母乳がよく出ると遠くからもお参りに来る人がいたこと、側にイチョウの大樹があることが記載されている。『宅間町の文化財』にはこのイチョウは幹周9m、枝ごとにチチが下がって中には地中に没するものもあり、県指定天然記念物だったが枯れてしまったと記載されている。近くで見ると本幹は枯れているが周囲から新しい幹が多数伸びて大きく育っており、遠くからもよく見える。
寿命院は山号を七宝山という真言宗御室派の寺院。行基が開山したと伝えられ、以前この場所にあったが、火災に遭って現在は200mほど下った場所に移されている。
旧丸亀藩京極家:西讃府志、藤田書店、1929、p544
日本放送協会編・柳田國男監修:日本傳説名彙、日本放送協会、1950、p75
柳田國男監修:改訂 総合日本民俗語彙 2巻、1955、p920
宅間町文化財保護委員会:宅間町の文化財 第4集、宅間町教育委員会、1976、p31
浅井治海:樹木にまつわる物語、フロンティア出版、2006、p49
写真:奥 起久子撮影(2023/4/25)、中村和恵氏提供(岡山県在住、小児科医、IBCLC)