吉延地区の山林と畑の境に小さな阿弥陀堂があり、その境内に大スギとイチョウが立っている。本山町報告書『町内指定文化財一覧』の「本山の歴史」に、昔は乳がよく出ることを願ってチチ(乳根とある)を切り取って煎じて飲んだという話が記載されている。イチョウにはびっしりとチチが下がっていてしめ縄が張られている。
また近隣の平石の乳イチョウ、高須の公孫樹もそうだが、このイチョウの側にもナンテンが植えられている*。
1972年「吉延の大杉と乳銀杏」の名で町指定天然記念物に。地元ではオリドの大杉、乳銀杏とも呼ばれる(現地の緑化推進委員会の案内板とGoogle mapではオンドリ杉となっているが、オリドが本当とのこと)。大スギは1991年環境庁データベースに樹高・幹周などのデータがあるが、イチョウは掲載されておらずデータがない。
阿弥陀堂周囲には古い石仏が多数並んでおり、長い歴史を物語っている。多くは江戸時代のもので、首が取れているのは明治の廃仏毀釈によるものらしい。
かつて阿弥陀堂の前は人の行き来が盛んな道が通っていた。10分ほど坂を登っていったところは参勤交代の行列が大休止する「大休場」だった場所で、江戸時代には宿場、茶屋などが数軒建ち並び、北山越えの要所として非常に賑わっていたという。
*余った乳を捨てる場所は、ナンテン・クワ・イチョウの木の根もとと決まっており、その際には一時お預けします、ないようになったら返してくださいと唱える、という話が『愛媛県史 民俗 下』にある。https://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:2/50/view/6602
本山町:町内指定文化財一覧、p12〜13
写真:奥 起久子撮影(2023/9/10)
資料提供:本山町教育委員会