平家の落人が住んでいたという伝承のある地区、集落から少し山を登った場所にイチョウが立っている。樹高30m*、目通り幹周7.6m*、樹齢伝承800年*で国指定天然記念物。古くから「婦人みな乳多きことを祈願する」と言われたと土佐市公式サイトにある。
乳銀杏と呼ばれて、遠くは吉野川沿線や阿波からも安産と乳授けの祈願に訪れ、願いが叶った後のお礼として、のぼり、櫛、毛髪、手鏡などが枝や幹のチチに結びつけられていたという。『四国老樹名木誌』『日本老樹名木天然記念樹』には、幹の基部のへこんだ部分に仏像と子安地蔵尊の祠が安置され、乳の出を祈願に来る、と記載されている。
多くのチチがあり、かつては、周囲約1m、長さ約3.5mに達するものもあったという。資料には、明治のはじめ頃はチチが地面につくと縁起が悪いと言われ、牛に引かせて折り取った、と記載されている。近隣の吉延の乳銀杏、高須の公孫樹もそうだが、このイチョウの側にもナンテンが植えられている。
土佐町教育委員会の現地案内文によると、昔ここには平家の落人が建てた千石寺という寺院があったが、弘長年間(1261〜1264)に毘沙門堂を1軒だけを残して移転した。イチョウはお寺の跡地にあり、宝暦8年(1758)に村人がその傍らに不動堂を建てた。
*1991年環境庁データベースによる
帝国森林会:日本老樹名木天然記念樹、大日本山林会、1962、p308
上原敬二:樹木図説第2巻イチョウ科、加島書店、1970、p174
牧野和春、中国・四国 巨樹名木めぐり、牧野出版、1991、p236〜237
土佐町公式サイト http://www.town.tosa.kochi.jp/publics/index/113/
写真:奥 起久子撮影(2023/9/10)