日本助産師会出版

乳信仰探訪

すぐそばを走る道路の上に枝を広げて覆い被さっている。
イチョウの根元に小さな祠があり、お賽銭があげられていた。
堂内に安置されているおっぱいのようなものは室町時代の五輪塔の一部とのこと。

「お梅さんの木」とも呼ばれ、地域のシンボルとして大切にされている大きなイチョウ。書籍『四国老樹名木誌』『日本老樹名木天然記念樹』『樹木図説』には、根元に小さな祠があり、「笹場の乳銀杏」と呼ばれて遠近から乳の出を願う婦人の参詣者が多い、と記載されている。
また資料には、根元に小さな祠があり中に室町時代の五輪塔残欠が安置されているとある。なぜそれがこの場所にあるのか疑問に思っていたが現地を見て納得、最上部の丸い部分は乳房のように見える頭部で、体に赤い布が巻かれてお祀りされているのだった。
1991年環境省巨樹データベースには樹高 19m、目通り幹囲 9.2mとあるが、6.2mと3.0mの2本のように見える。樹齢は現地案内板に伝承800年とある。乳銀杏という呼称の割にはチチはほとんど認めない。中土佐町教育委員会からの情報では、現在地元には乳祈願の話は伝わっていないとのことである。
次のような平家の落人にまつわる伝承が知られている。源平の合戦に敗れてこの土地に落ちのびてきた平家の一団の中に、大津守(おおつかみ)とお梅がいて、見つからないように分散して行動することにした。その際お梅がひろったイチョウの実を渡して、再会の時の目印にする約束をした。大津守とお梅はその実をまき、この笹場を安住の地とした。その中の2本が育ち、雌樹の方をジケ谷(元龍門寺跡、現在の大師堂)に、雄樹の方はこの場所に移して現在に至っているとのことである。

高知営林局:四国老樹名木誌 上巻、1928、p86
帝国森林会:日本老樹名木天然記念樹、大日本山林会、1962、p334
上原敬二:樹木図説 第2巻イチョウ科、加島書店、1970、p175〜176
写真:奥 起久子撮影(2023/9/9)
情報提供:中土佐町教育委員会

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