出羽は「いずるは」と読む。江戸幕府直轄地であった日田市には多くの乳もらいの場所が記録として残っている。ここもその一つで、『天瀬町史』に、高塚地蔵尊、台神社、薮観音、荒山地蔵尊、袋地蔵尊、出羽薬師があり、主としてイチョウに関係のある場所が多い、願いが叶うと年の数だけの乳型を供える、との記載がある。薬師堂だった建物のすぐ脇には樹高約36m*、胸高幹周5.9m*という雄木のイチョウがあり、チチが下がっている。
近隣にお住まいの年配の女性(70歳、81歳)のお話では、このお薬師さまは大変霊験あらたかで、乳の出のご利益だけでなく、この集落では日清戦争以降第二次世界大戦でも戦死者が出ず、新型コロナ患者も出なかった。昔はホウズキのような小さい乳型が奉納されていたという話は聞いたような気がするが、改築時にそのような古いものは処分してしまったとのこと。
木の周囲には五輪塔などの残欠が集められている。12月8日が祭礼日である。薬師如来は木像で高さ約30cm、光背をもち彩色されている。安政2年(1855)の銘があり、久留米の仏師作との記載があり(『天瀬町の文化財』)、江戸時代から地域で大切にされてきたものであろう。
お堂は昭和57年(1982)に改築されて、出羽生活改善センターになっており、中に仏像が安置されている。三体の仏像があり、中央が薬師如来。
*天瀬町教育委員会:天瀬町の文化財 第2集、1976、p50
天瀬町:天瀬町史 明日への礎 改訂版、天瀬町、2005、p592
写真:奥 起久子撮影(2023/11/7)、飯田 崇氏(日田市在住)提供
情報提供:日田市役所文化財保護課