円通寺の参道の脇、本堂の前に、樹高30m*、目通り幹周8.0m*という市指定天然記念物のイチョウの古木がある。『大分の伝説』に乳の信仰があると、『日本産育習俗資料集成』には、乳の祈願には、北海部郡川添村の九六位山に参詣し祈祷をしてもらい、境内にある古いいちょうの木に垂れ下がっているチチを受けて帰るとの記載がある。
児島は住職夫妻への聞き取り調査で、樹皮を取って仏さまに供えてお経を読んで持って帰って煎じて飲むとよいと言われていたこと、20~30年前くらいまで祈願に来る人があり、熊本の山鹿からもお参りに来たと報告している。
イチョウは苔やシダが樹木全体を覆い、根元には沢山の石仏が置かれている。
円通寺は山号を九六位山(くろくいさん)という天台宗の寺院で、ご本尊は千手観音。言い伝えによると、百済から来日した日羅上人が591年に大分市古国府の岩屋寺を開いた時、瑞雲がかかるのを見てこの山に登ったところ、9頭の鹿や猪が道案内をした。そこで日羅上人は千手観音を刻んでこの地に安置し、9頭の鹿や猪に因んで九鹿猪山(くろくいさん)円通寺と名づけたという。寛文8年(1632)に九六位山と改められる。
円通寺は、霊山の霊山寺、神角寺山の神角寺とともに豊後の三大寺院と称される古刹である。
恩賜財団母子愛育会:日本産育習俗資料集成、第一法規出版、1975、p364
梅木秀徳、辺見じゅん:大分の伝説 日本の伝説49、角川書店、1980、p40
児島恭子:イチョウ巨樹の乳信仰と女性、乳房文化研究会会報、2022、p84〜92
*1991環境庁データベース
写真:内岡 恵撮影(2023/8/20)