


阿蘇市街地の東の外れ、坂梨地区の路地の奥に天神社があり、境内の小堂に木喰上人(もくじきしょうにん)の子安観音像が安置されている。高さ163cm、胴廻り150cm、木喰独特の型破りで個性豊かな老婆のような観音さまが赤ちゃんを抱いている。ケヤキに彫られていて市指定文化財である。
木喰上人は寛政4年(1792)にここ坂梨宿を訪れ、子宝に恵まれなかった土地の富豪である虎屋の依頼により、「安産、健やかな成長、豊母乳」を祈願して子安観音を彫刻したという。藤井*によると九州で木喰上人が作った像は坂梨の一体のみという。
阿蘇市教育委員会による現地案内板には、子どもの病気治癒や乳の出がよくなるよう祈願する人々の信仰を集めたと、以前あった旧一の宮町名の現地案内板と『豊後街道を行く』には、小さな竹筒に甘酒を入れて祈願したとある。
坂梨は豊後街道と野尻(高千穂、日向方面)へと通じる日向(野尻)往還の交わる宿場町で、古くから通りには常夜灯が並び民家の他に、旅籠、酒造業など50軒以上の店が軒を連ねていたという。
*藤井達矢:木喰仏と宝珠 ―特に子安像の形態について―、武庫川女子大学生活美学研究所紀要、27:121-134.2017
藤井によると、木喰上人は甲斐(山梨県)の出身で、全国を巡って1000体以上の仏像彫刻を作成、現存するものは600体以上という。そのうち子安地蔵は17体、子安観音は21体で、すべて子どもを抱いている。(奥注:木喰仏のうち乳の祈願の情報が伝わっているのは、北海道江差町金剛寺子安地蔵、阿蘇のこの子安観音、兵庫県猪名川町東光寺の立木子安観音の3体だけのようである。)
松尾卓次:豊後街道を行く、弦書房、2006年、p71〜72
サイト「阿蘇ペディア」 http://www.aso-dm.net/?木喰上人作子安観音像
サイト「豊後街道の宿場町 坂梨宿」 http://sakanashi.ddo.jp/frame2.htm
写真:内岡 恵撮影(2008/05/13)
情報提供:阿蘇市教育委員会