国指定遺跡であるチブサン古墳は6世紀に作られた代表的な装飾古墳である。石室の壁に描かれた文様が乳房に見えるということから、「チブサン」古墳と呼ばれ、「乳の神様」として古来地元の人達に信仰されてきたと、山鹿市商工観光課のサイトで紹介されている。
柳田國男は次のように書いている。「肥後鹿本郡小城村城ノ丘の上の畑中に、指定保護物の古墳が2つある。その1つをオブサンと云ひ、今一つをチブサンと云ふ。・・・甘酒を供て祈願すると効験があるとて参詣の絶え間がないと云ふ。チブサンは「乳房様」の意か、オブサンは一名「育塚」と云ふが、「産の神」の謂であるか。」
この情報のもとは大正時代に書かれた『肥後國史』で、古墳の中は常に甘酒の匂いで満ちていたとのことである。甘酒をお供えして祈願する風習は、今から4、50年前まで残っていたそうだ(2021年山鹿市立博物館より)。
乳の祈願の対象になった理由は石室の壁に描かれた文様からとのことだが、古墳全体の形はどう見ても乳房ではないだろうか。
柳田國男:産育習俗語彙、恩師財団愛育会、1935、p118
柳田國男監修:改訂 総合日本民俗語彙 2巻、1955、p923
後藤是山:肥後國史、1916、p5
山鹿市史編纂室:山鹿市史、山鹿市、1985、p265
山鹿市商工観光課サイト https://yamaga-tanbou.jp/spot/9464/
写真:奥 起久子撮影(2021/5/5)
資料と情報提供:山鹿市立博物館