日本助産師会出版

乳信仰探訪

保口神社 鬼山御前堂と乳水

保口山の奥深い場所にある保口神社は現地の方々が守ってきた
新しく建てられた鬼山御前堂に那須小太郎宗治と一緒に祀られている

むかし保口岳の山中に平家の落人である鬼山御前が隠れ住んでいた。なかなか美人の女性で頭がよく、また乳の出がよく周囲の子どもたちにも乳を与えて育てたとのことで、「乳の神様」として保口神社に祀られたという話が、八代市公式サイトにある。
昔の習俗としてよく知られている話だが、生まれるとどの赤ちゃんも最初はまず近隣の授乳中の人の乳を飲ませてもらい、その後も自母乳が不足する場合は周りの人からもらい乳をするのが普通で、授乳や育児は母が一人で行うのではなく、周囲の人も協力して赤ちゃんを育てていた。
また神社の下の方にある湧水を飲むと乳の出がよくなるという話が、現地案内板「鬼山御前の乳水」と『八代市歴史文化基本構想』にある。
鬼山御前の乳房は大変大きくて、おぶったままの背中の子どもに乳を飲ませたという話が現地案内板にあるが、『秘境五家荘の伝説』には、乳房の長さが一尺(30cm)というこれを裏付ける記載がある。
源平合戦の「屋島の戦い」では、源氏方の那須与一が平家方の小舟の扇の的を矢で射落としたという有名な場面があるが、その際に扇の的を掲げていた平家方の女官が当時玉虫御前と名乗っていた鬼山御前とのこと。
平家の残党追討に来た那須与一の嫡男小太郎宗治を引き留め、夫婦になって保口に住みつき、近所の子どもに乳を与えたという話は、八代市の現地案内板と『泉村史』にもある。
保口神社は、八代市泉支所から山道を1時間以上車で登っていく秘境のような場所にある。山道から少し距離があるため、山道に近い乳水のそばに鬼山御前堂が建てられた。
さらに登って行くと神社のすぐ下に、明治に再建されたという鬼山御前のお墓がある。『秘境五家荘の伝説』によるとそこにある命日は鬼山御前のものではなく、一ノ谷の源義経との戦いで戦死した父の命日という。

荒木精之ほか:日本の伝説26 熊本の伝説、角川書店、1978、p35〜36
山本文蔵:秘境五家荘の伝説、1990、p89〜90
熊本日日新聞情報文化センター:泉村史、2005、p852〜853
八代市経済文化交流部文化振興課:八代市歴史文化基本構想、2019、p68〜69
八代市公式サイト https://www.city.yatsushiro.lg.jp/kankou/kiji0031123/index.html
写真:奥 起久子撮影(2022/8/15)
資料提供:八代市立博物館、八代市役所

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